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bananake-tai’s diary

大学数学初学者のブログ

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行列の演算

以下の記事の続きを書く。

bananake-tai.hatenablog.com

前回は行列の定義をして、色々な特徴的な行列の例をあげた。前回の行列の定義でも問題はないのだが、厳密な行列の定義もしておく。

定義(行列)

$I,J$ を有限集合とする。
このとき、 $$ A:I\times J\to \mathbb{R} $$ という写像 $A$ を行列という。

つまり、行列というものは $1$ つの写像を与えているのである。
いちお、こういうイメージを持っておくと行列を理解しやすいかもしれない。 前回の記事で書いた、

$$ A= \left( \begin{array}{c} a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n} \\ a_{21} & a_{22} & \cdots & a_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{m1} & a_{m2} & \cdots & a_{mn} \end{array} \right) $$

という表記は、写像 $A$ を $(i,j)\mapsto a_{ij}$ と表せば、$A$ の像を並べているにすぎない。つまり、写像の意味での行列と、写像の意味のでの行列の像を並べたものを、同一視して単に行列として扱っているわけである。 また、前回定義した記号、$M_{m,n}(\mathbb{R})$ は $I\times J\to \mathbb{R}$ という写像全体を集めているということになる。

そう考えると前回行列の相等を定義したが、写像の相等と考えているということである。
このように、行列を写像ととらえることによって、色々みえてくるものをあると思う。以降は、行列を前回のように扱っていく。

定義(行列の和) $A=(a_{ij}),B=(b_{ij})$ とする。 このとき、
$$ A+B=(a_{ij}+b_{ij}) $$ と定義する。

つまり、各成分同士の実数の和で定義するのである。

和が定義されたら、積の定義もほしいところである。

定義(行列の定める写像

$A=(a_{ij})$ とする。
$T_A:\mathbb{R}^{n}\to \mathbb{R}^{m}$ を次のようにさだめる。 i=1,\ldots ,m にたいして、 ただし、$\boldsymbol{x}\in \mathbb{R}^{n}\ ,\boldsymbol{y}\in \mathbb{R}^{m}$ をそれぞれ、 $$ \boldsymbol{x}= \left( \begin{array}{c} x_{1}\\ x_{2}\\ \vdots\\ x_{m} \end{array} \right) \ , \boldsymbol{y}= \left( \begin{array}{c} y_{1}\\ y_{2}\\ \vdots\\ y_{m} \end{array} \right) $$ と書くことにする。
$T_A(\boldsymbol{x})=\boldsymbol{y}$ を $\forall i\in \{1,\ldots ,m\}$ に対して、 $$ y_i=\sum_{j=1}^{n}a_{ij}x_j $$ と定義する。

最初に連立方程式の話をしたが、以上のように定義すると、以下のm 個の $n$ 元1次連立方程式を表しているようにみえる。

$$ a_{11}x_{1}+a_{12}x_{2}+\cdots +a_{1n}x_{n}=y_{1}\\ a_{21}x_{1}+a_{22}x_{2}+\cdots +a_{2n}x_{n}=y_{2}\\ \cdots \\ a_{m1}x_{1}+a_{m2}x_{2}+\cdots +a_{mn}x_{n}=y_{n}\\ $$

表しているようにみえるというか、このような連立方程式を扱いたくて、以上のように写像を定義したと考えるほうが私は自然だと思う。

さて、行列の積はどのように定義すればよいのだろうか。たぶん、一番最初に思い浮かぶのは和と同じように成分どうしの積で定義することだろうが、 これは自然ではない。なぜかというと、上記の行列から定まる写像を考えて、自然に積を導入していくと、そうならないからである。

命題

$A\in M_{l,m}(\mathbb{R}),B\in M_{m,n}(\mathbb{R})$ とし、$A=(a_{ij}),B=(b_{jk})$ とする。
それぞれ、対応する写像を、 $$ T_A:\mathbb{R}^{m}\to \mathbb{R}^{l}\ ,T_B:\mathbb{R}^{n}\to \mathbb{R}^{m} $$ とする。
このとき、$C\in M_{l,n}(\mathbb{R})$ を $C=(c_{ik})$ とし、$\forall (i,k)$ に対して、 $$ c_{ik}=\sum_{j=1}^{m}a_{ij}b_{jk} $$ と、$T_A\circ T_B=T_C:\mathbb{R}^{n}\to \mathbb{R}^{l}$ となる。

証明

$\boldsymbol{u}=T_B(\boldsymbol{x})\ ,\boldsymbol{v}=T_B(\boldsymbol{u})$ とおき、


\begin{eqnarray}
u_{j}=\sum_{k=1}^{n}b_{jk}x_{k}\   (1\leq j\leq m)\\
v_{i}=\sum_{j=1}^{m}a_{ij}u_{j}\   (1\leq i\leq l)
\end{eqnarray}

とおく。


\begin{eqnarray}
v_i&=&\sum_{j=1}^{n}a_{ij}x_{j}\\
&=&\sum_{j=1}^{m}a_{ij}\sum_{k=1}^{n}b_{jk}x_{k}\\
&=&\sum_{j=1}^{m}\sum_{k=1}^{n}a_{ij}b_{jk}x_{k}\\
&=&\sum_{k=1}^{n}\sum_{j=1}^{m}a_{ij}b_{jk}x_{k}\\
&=&\sum_{k=1}^{n}c_{ik}x_{k}
\end{eqnarray}

よって、$T_A\circ T_B=T_C$ となる。

$\Box$

この命題からわかるのように、積をどう定義すればいいのかは自然とみえてくるだろう。

定義(行列の積)

$A\in M_{l,m}(\mathbb{R}),B\in M_{m,n}(\mathbb{R})$ の積 $C=AB\in M_{l,n}(\mathbb{R})$ を $$ c_{ik}=\sum_{k=1}^{n}a_{ij}b_{jk} $$ と定義する。

このように定義すれば、$T_A\circ T_B=T_{AB}$ となり、ごく自然であることがわかると思う。各成分どうしの積で定義すると、このようなことは起こらない。

さらに、

$$ A= \left( \begin{array}{c} a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n} \\ a_{21} & a_{22} & \cdots & a_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{m1} & a_{m2} & \cdots & a_{mn} \end{array} \right) \ , \boldsymbol{x}= \left( \begin{array}{c} x_{1}\\ x_{2}\\ \vdots\\ x_{m} \end{array} \right) \ , \boldsymbol{y}= \left( \begin{array}{c} y_{1}\\ y_{2}\\ \vdots\\ y_{m} \end{array} \right) $$

とおくと、最初にかいた連立方程式を単に

$$ A\boldsymbol{x}=\boldsymbol{y} $$

というように、書き表せる。こういうこともあって、行列が研究対象となるのである。

定義(スカラー倍)

$A=(a_{ij})$ とする。
$\lambda \in\mathbb{R}$ に対して、 $$ \lambda A=(\lambda a_{ij}) $$ と定義する。

これで行列に必要な演算を定義できた。

定理(積の結合法則

$A\in M_{k,l}(\mathbb{R}),B\in M_{l,m}(\mathbb{R}),C\in M_{m,n}(\mathbb{R})$ とし、$A=(a_{ij}),B=(b_{jk}),C=(C_{kl})$ とする。 このとき、 $$ (AB)C=A(BC) $$ が成立する。

証明

$(AB)C$ の $(i,h)$ 成分は


\begin{eqnarray}
\sum_{k=1}^{m}(\sum_{j=1}^{l}a_{ij}b_{jk})c_{kh}&=&\sum_{k=1}^{m}(\sum_{j=1}^{l}a_{ij}b_{jk}c_{kh})\\
&=&\sum_{j=1}^{l}(\sum_{k=1}^{m}a_{ij}b_{jk}c_{kh})\\
&=&\sum_{j=1}^{l}a_{ij}(\sum_{k=1}^{m}b_{jk}c_{kh})\\
\end{eqnarray}

よって、$A(BC)$ の $(i,h)$ 成分と一致する。

行列の積は結合法則を満たすが、一般的には、$AB=BA$ とはならないことに注意してほしい。

間違いや、感想がありましたら、コメントをよろしくお願いいたします。

参考文献

砂田利一, 行列と行列式 ,岩波書店, 2003.
http://www.ms.u-tokyo.ac.jp/~takagi/Draft/lecnote2014.pdf https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A1%8C%E5%88%97#.E5.8E.B3.E5.AF.86.E3.81.AA.E5.AE.9A.E7.BE.A9