bananake-tai’s diary

大学数学初学者のブログ

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素イデアルと極大イデアル

以下の記事の続きである。 bananake-tai.hatenablog.com

定義(整域)

$A$ を環とする。
$A$ の零因子が $0$ のみのとき、$A$ を整域という。

補足

つまり、$A$ が整域のとき、$a,b\in A$ とすると、 $$ ab=0\Rightarrow a=0\lor b=0 $$ が成立するということである。

$\Box$

例(整域でない)

$n=ab$ を合成数とすると、$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ は整域でない。

$[a][b]=[ab]=[n]=[0]$ となるので、整域ではない。

$\Box$

例(整域でない)

$\mathbb{R}/(x^{2}-1)$ は整域ではない。

$[x-1][x+1]=[(x-1)(x+1)]=[x^{2}-1]=[0]$ となるので、整域ではない。

$\Box$

命題

体は整域である。

証明

$K$ を体とし、$a,b\in K$ とする。
$ab=0$ とすると、$a^{-1}\in K$ が存在するので、$a^{-1}ab=0$ となり、$b=0$ である。

$\Box$

定義(素イデアル)

$P$ を 環 $A$ の自明でないイデアルとする。
$a,b\in A$ に対して、 $$ ab\in P\Rightarrow a\in P\ \lor \ b\in P $$ が成り立つとき、$P$ を $A$ の素イデアルという。

イデアルと整域には密接な関係がある。

命題

$A$ を環とし、$P$ を $A$ イデアルとすると、次は同値。
$(1)$ $P$ は素イデアルである。
$(2)$ $A/P$ は整域である。

証明

$\pi:A\to A/P$ を自然な準同型とする。
$\underline{(1)\Rightarrow (2)}$
$x,y\in A/P$ をとると、$\pi$ 全射なので、$\exists a,b\in A\ ;x=\pi(a),y=\pi(b)$
$$ xy=\pi(a)\pi(b)=\pi(ab)=0 $$ よって、$ab\in P$ である。
$P$ は素イデアルなので、$a\in P$ とすると、$x=\pi(a)=0$
よって、$A/P$ は整域である。

$\underline{(2)\Rightarrow (1)}$
$a,b\in P$ とし、$ab=0$ とする。
$\pi(a)\pi(b)=\pi(ab)=0$ で、$A/P$ 整域なので、$\pi(a)=0$ とすると、$a\in P$
よって、$P$ は素イデアルである。

$\Box$

準同型定理より、$\mathbb{C}[x,y]/(x^{4}-y^{3})\cong \mathbb{C}[t^{3},t^{4}]$ である。
${C}[t^{3},t^{4}]\subset \mathbb{C}[t]$ なので、$\mathbb{C}[t^{3},t^{4}]$ は整域となる。
よって、$(x^{4}-y^{3})$ は素イデアルである。

$\Box$

定義(極大イデアル

$ m $ を 環 $A$ のイデアルとする。
$I\subset A$ が任意のイデアルで、$m\subset I\Rightarrow m=I \lor I=A$ となるとき、$ m $ を $A$ の極大イデアルという。

極大イデアルは体と密接に関係あるが、その前に次の命題を証明する。

命題

$A$ を環とする。
$ m $ が極大イデアルなら、$m $ は素イデアルである。

証明

イデアルの定義の対偶で示す。すなわち、 $$ a\not\in P\ \land \ b\not\in P \Rightarrow ab\not\in P $$ を示す。

$a,b\not\in m $ とする。
$a\not\in m $ なので、$m\subset m+(a)$ となり、$m+(a)=A$
特に、$1\in m+(a)$ なので、$\exists n\in m\ ,\exists\ ;r\in A\ ;1=n+ra$
$b\not\in m $ なので、同様に、$\exists n'\in m\ ,\exists\ ;r'\in A\ ;1=n'+r'b$
よって、$1=(n+ra)(n'+r'b)=nn'+nr'b+n'ra+rr'ab$
$ab\in m $ とすると、$1\in m $ となり、$m=A$ なので、極大イデアルであることに矛盾。
よって、$ab\not\in m $ である。

$\Box$

極大イデアルは素イデアルの例をあたえるが、極大イデアルは十分おおく存在する。
なので、極大イデアルや素イデアルを考える意味がある。

定理(極大イデアルの存在)

$A$ を環とする。
$J\subset A$ を自明でないイデアルとすると、$J\subset m $ となる極大イデアル $m $ が存在する。

証明

ツォルンの補題を使って証明する。

$S=\{J\subset I\mid I\subsetneq A:ideal\}$ とする。
$\{0\}\in S$ なので、$S\neq \varnothing$
$\forall I_{1}\ , I_{2}\in S$ に対して、 $$ I_{1}\leq I_{2}\Leftrightarrow I_{1}\subset I_{2} $$ と定義すると、$S$ は半順序集合となる。
$\{I_{\lambda}\}_{\lambda\in \Lambda}$ を $S$ の任意の全順序部分集合とする。
$$ S_{0}=\bigcup_{\lambda\in \Lambda}I_{\lambda} $$ とすると、$S_{0}$ は $A$ の真のイデアルとなる。
イデアルであることは自明。
$S_{0}=A$ なら、$\exists \lambda \in \Lambda\ ;1\in I_{\lambda}$
これは、$I_{\lambda}=A$ であることに矛盾。
よって、$S_{0}\neq A$ なので、$S_{0}\in S$
よって、$S$ の極大元 $m $ が存在する。

$\Box$

命題

$A$ を環とし、$m $ を $A$ イデアルとすると、次は同値。
$(1)$ $m $ は極大イデアルである。
$(2)$ $A/m $ は体である。

証明

$\pi:A\to A/m $ を自然な準同型とする。
$\underline{(1)\Rightarrow (2)}$
イデアルの対応により、$m\subset I$ なる $A$ のイデアル $I$ と $A/m $ のイデアルは一対一に対応する。
$m $ は極大イデアルなので、そのような $I$ は $I=m\ ,I=A$ のみである。
$ker(\pi)=m $ なので、$\pi(m)=0$ であるので、$\pi(A)=A/m $ となる。
よって、$A/m $ は自明なイデアルしか持たないので、体である。

$\underline{(2)\Rightarrow (1)}$
上の議論の逆をたどればよい。

$\Box$

補足

極大イデアルが素イデアルことを示したが上の命題を使えば自明となる。
なぜなら、$m $ が極大イデアルなら $A/m $ は体であり、体は整域で、$A/m $ が整域なので、$m $ は素イデアルである。

$\Box$

イデアルや極大イデアルの例は準同型定理の記事でみつかるだろう。

bananake-tai.hatenablog.com

イデアルであって極大イデアルでない例を1つあげる。

$\phi:\mathbb{Q}[x,y]\to \mathbb{Q}[x]$ を $\phi(f(x,y))=f(x,0)$ と定義する。
$ker(\phi)=(y)$ となるので、$\mathbb{Q}[x,y]/(y)\cong \mathbb{Q}[x]$
$\mathbb{Q}$ は整域なので、$\mathbb{Q}[x]$ は整域 $(y)$ は素イデアルである。
また、$\mathbb{Q}[x,y]/(x,y)\cong \mathbb{Q}$ なので、$(x,y)$ は極大イデアルである。
しかし、$(y)\subset (x,y)$ なので、$(y)$ は極大イデアルでない。

$\Box$

命題

$\mathbb{Z}$ において次は同値。
$(1)$ $p$ が素数
$(2)$ $(p)$ が素イデアル

証明

$\underline{(1)\Rightarrow (2)}$

$a,b\in \mathbb{Z}$ とする。
$$ \begin{align} ab\in (p)&\Rightarrow p\mid ab \\ &\Rightarrow p\mid a \lor p\mid b \\ &\Rightarrow a\in (p)\lor a\in (p) \end{align} $$ よって、$(p)$ は素イデアル

$\underline{(2)\Rightarrow (1)}$

$p$ が素数でないとすると、$\exists a,b\in \mathbb{Z}\ ;p=ab\ (1<a,b<p)$
よって、$a,b\not\in (p)$ なので、$(p)$ が素イデアルであることに矛盾。
よって、$p$ は素数

$\Box$

補足

$(p)$ を含む $\mathbb{Z}$ のイデアルは $p$ または $(1)$ のみである。
$\mathbb{Z}$ の任意のイデアルは単項イデアルなので、$(a)$ という形をしていて、
$a\mid p$ なる $a$ は $1$ と $p$ だけである。
さらに、このことから $(p)$ が極大イデアルということも分かる。
よって、$\mathbb{Z}/(p)$ は体である。

命題(素イデアル、極大イデアルの対応)

$I\subset P,m $ を 環 $A$ のイデアルとする。
このとき、次は同値。
$(1)$ $P$ は $A$ の素イデアルである。
$(2)$ $P/I$ が $A/I$ の素イデアルである。
さらに、次も同値。
$(1')$ $m $ は $A$ の極大イデアルである。
$(2')$ $m/I$ が $A/I$ の極大イデアルである。

証明

イデアルの対応より、$I\subset J$ なら、$J/I$ は $A/I$ のイデアルとなる。
$\underline{(1)\Leftrightarrow (2)}$

第三同型定理より、$(A/I)/(P/I)\cong A/P$ である。
$P$ 素イデアルより、$A/P$ は整域なので、$(A/I)/(P/I)$ も整域となり、$(P/I)$ は素イデアル

$\underline{(1')\Leftrightarrow (2')}$

第三同型定理より、$(A/I)/(m/I)\cong A/m $ である。
$m $ 極大イデアルより、$A/m $ は体なので、$(A/I)/(m/I)$ も体となり、$(m/I)$ は極大イデアル

$\Box$

命題

$A,B$ を環とする。
$A$ が整域で $A\cong B$ のとき、$B$ も整域となる。

証明

$\phi:A\to B$ を同型写像とする。
$x,y\in B$ を任意にとる。
$\phi$ 全射なので、$\exists a,b\in A\ ;\phi(a)=x\ ,\phi(b)=y$ となる。
$xy=0$ とすると、$\phi$ は準同型なので、$\phi(a)\phi(b)=\phi(ab)=0$
よって、$ab\in Ker(\phi)$ となるが、$\phi$ 単射なので、$ab=0$ となるしかない。
$A$ 整域なので、$a=0 \lor b=0$ なので、$x=0 \lor y=0$ となる。
よって、$B$ は整域

$\Box$

$\mathbb{C}[x]/(x^{3})$ の素イデアルと極大イデアルをすべて求めよ。

$A=\mathbb{C}[x]\ ,I=(x^{3})$ とする。
イデアルの対応と素イデアルの対応より、$A/I$ の素イデアルは $I$ を含む $A$ の素イデアルと対応する。
$P\subset A$ を素イデアルとする。
$I\subset P$ なら、$P$ は素イデアルなので、$x\in P$ となる。
よって、$(x)\subset P$ である。
しかし、$A/I\cong \mathbb{C}$ となり、$I$ は極大イデアルなので、$P=(x)$
よって、$A/I$ の素イデアルは $(x)/I$ で極大イデアルでもある。

$\Box$

参考文献

雪江明彦, 代数学2, 日本評論社, 2015.
新妻 弘, 群・環・体 入門, 共立出版, 2016.